ゆとった脳みそこねこね

脳みそかにみそ🦀

レジの神

ハンバーグを作るぞ、と思い立った。

ひき肉や玉ねぎがちょうどあるわ!という状況ではない。ひき肉がちょうどある人は主婦力がかなり高い。

主婦歴こそだんだん伸びてきたが、力の方がもっぱら低いわたしはゼロからだ。レキ高、リョク低。レキ高、リキ低。

 

ハンバーグと言えばよく使われるナツメグだって賞味期限内に使い切ったことはない。あいつはダニが発生するらしい。なんて恐ろしい調味料なんだ。開封後は冷蔵庫内に保管することで、少々期限が切れても大丈夫らしい。

ただわたしは常温放置、ダニはなさそうだけどそんな情報を目にしたら途端に気持ち悪くなって新品を買う!と思い立ったのだ。金銭面でも主婦力が低すぎる。

 

肉を買うなら、と決めてるスーパーがある。肉の種類がとかく豊富で、どんな料理を思い浮かべても、それに合う切り方の肉、量が売ってるお店。なのでそこへ向かう。

 

玉ねぎは家にあったので、牛ひき肉、豚バラ薄切り肉、パン粉、ナツメグを買い物カゴに放り込んでいく。

ちなみにパン粉も新たに買う主婦力の低さはもう言わなくても分かるだろう。

 

ところでこのスーパーには、レジの神がいる。

彼女はこのスーパーのレジをするために生まれてきたんだろう。

ご本人がどんな思いでこのスーパーのレジ係を勤めているかは知る由がないのでわたしは失礼ながら勝手にこう思っている。

とにもかくにもテキパキ早いのに、気遣いも忘れず、大きな声で明るくハキハキしている。

大きな店舗ではなく、場所柄、ご高齢者も多いのだが、そんな常連さんとの会話も楽しみながら光の速さでレジ打ちが行われている。

わたしも息子や娘が入園する前は連れて行くことが多かったのだけど、彼女は必ず袋やマイバックに入れてくれ、息子や娘にも明るく話しかけてくれる。

 

一方のわたしは成人してから10年以上経つが、常にぼけーっとしていて、いざ話しかけられても大体2秒以上は間が空く。

方やスピードスター、方や呆けの極み。

 

ハンバーグを作る材料をカゴに入れた呆けの極みがレジの神にレジに並ぶ。

今日は主婦1人なのに「バッグにお入れしますよ!」と話しかけてくれた。

2秒以上間が空く。

「えっいいんですか」

「いいですよ!勉強になるんで!」

のそのそマイバックを差し渡す呆けの極み。

神はすごい。勉強になる、と前向きな言葉を放って返答も行動も遅い呆けの極みの買い物をピャッピャピャッピャバッグに詰めて行く。

「気を付けてお持ちくださいね!」

レジの神はバッグの紐までぴー!と引っ張って完璧な所作である。

支払いのみセルフの店なのでまた呆けの極みはもたもたと現金を投入する。

その間もレジの神は次のお客さんと明るく会話しながらもうレジ打ちが終わっている。

 

この人と喋りたいがためだけに来るご老人もいるんじゃなかろうか。

「今日も手際良いね〜!」などと神が褒められているところにも遭遇したところがある。

呆けの極みはドラッグストアで数年バイトをしたことがあるが、レジでそんな言葉は一度も言われたことがない。

今日もレジの神はすごかったなぁ、と思いながら家に帰る。

 

神に詰めてもらったマイバッグから買ったものをのそのそ取り出し、冷蔵庫にしまっていく。

 

全部入れて、さて、ハンバーグのタネだけでも作っとこう、と奮起してから気付く。

 

ナツメグがない。

 

レシートを見てみても、ナツメグのナの字もない。呆けの極みとは言え、ナツメグをカゴに入れた記憶はある。なぜならハンバーグを作る気だけは満々だから。

 

神の手捌きが速すぎて、カゴに残ったであろうナツメグも見えなかったのだ。

(ちなみに小瓶ではなく、詰め替えのうっすいパウチ)

 

神は、呆けの極みに、また使いきれないナツメグなんて買うのはおよしなさいと思ったのかもしれない。

ナツメグがなくたってハンバーグは完成するのだから。

 

レジの神、無駄な出費まで抑えてくれて、本当にありがとうございました…またよろしくお願いします…